愛器 ヤマハGC60
製作者・伊藤さんのサインがある。

クラシックギターを手にした時、「ぼくはしばしの間、子供だけが感じることのできる、あのなんともいえぬ、むさぼるような、うっとりした感じに襲われる。」(ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』より)

クラシックギターをご存じだろうか。ギターにもフォーク(アコースティック)、エレキなどいろいろあるが、クラシックは電子機器を用いない、指(爪)だけで音を出すものである。しっとりとした温かみのある深い音色が何とも言えない。部屋の中で一人でも演奏でき、あまり大きな音が出ないため(欠点でもある)比較的他の人の迷惑にならない。と思っているのは自分だけなのか、20代前半、夜にアパートで弾いてうるさいと階下の大家に言われ、たった1か月でそこを出たことがあった。秋田出身の大家さんというので入った部屋だったのに。敷金・礼金など引っ越すにはお金がかかるため先輩S氏に借金をして、ボーナスで返したのであった。そんなこんなで、離れることができなかったギター…。少年時代(13歳)その音色に魅せられて始め、なかなか上達しないが、今に至っている。

途中、あまり熱心でない時代もあったが、平成18年に1か月分の給料では手が届かないヤマハGC60を購入した。受注生産で半年近く待たされ、届いた時の顔はまるで中学生、人には見せられないものであったろう。通算6台めのこのギターを毎日大事に弾いている。フォークギターでコードを弾きながら歌う人はどこにでもいるが、クラシックは弾く人がたいへん少なく、仲間を探すのに一苦労である。二重奏をやりたいと思ってもできないのだ。数年来、「オリエンタルダンス」というロシア民謡を弾きたいと願っていてもできずにいた。ところが、昨年、十文字町の「ねま~れ」という所にT氏が主催するギター教室・同好会があると知り、夏から参加させてもらっている。この会は毎週日曜の午後にあるため、囲碁の方は水曜日だけとなった。同好会では念願の「オリエンタルダンス」を含む二重奏や三重奏を練習し、個人で練習中の主な曲は、J・Kメルツ作曲「エレジー」、アルベニス作曲「マジョルカ」などである。体調や爪の状態などで音色は変わるが、思い描いた音が出ると思わずにんまりとする。逆にいくら深呼吸をして丁寧に向かっても歌ってくれないこともある。現に、今、右手のiの指(人差し指)の爪が割れて中の方に食い込み、最悪の状態である。やすりで削ってほんのわずか残して使ってはいるが。因みに、クラシックギターでは右手は原則として4本の指しか使わない。親指(p)人差し指(i)中指(m)薬指(a)のpimaが運指記号として楽譜に使われる。

こんなことを下書きしていて、12日(日)同好会から帰ろうとしていた時に、O氏が「ねま~れ」に現れたのである。彼は高校の先輩で、夏に私をギターの会並びに横手マンドリンクラブに誘ってくれたのだったが、多忙を極め、会わずじまいであったのだ。さまざまな合奏の楽譜を示し、熱っぽく語る。主催するT氏が、ここは4時までで終わりだから喫茶店に移動しようと提案し移ったが、そこは喫茶というよりも居酒屋といった造りであった。そこでギターを店内に持ち込み、すぐに合奏となった。気に入った楽譜は全部提供するというO氏、自ら所有するギターを2台持ってきていた。そのうちの一台を借りて弾いてみた。なんとネックのあたりがすっきりとしていて音もよく大変弾きやすかった。後で聞いたら「サントスエルナンデス」の1943年製だという。たいへんな名器で450万円はするという。その場でO氏に楽譜を見せられ、「じゃあ、やってみますか。」と言うので、指の状態は最悪であったが、「愛のロマンス」「二つのギター」「コンドルは飛んでいく」などを合奏した。その後、私のGC60を手にして、「ああ伊藤さんだな」と製作者のことを懐かし気に語り、「彼の作品は甘い、いい音なんだよね」と語る。製作の段階など私には初めての世界で、実に新鮮であった。一時期ヤマハのギター製作もした経験がある(GC40)という調律師のO氏は、当然のごとく音楽そしてギターの専門家らしい発言ばかりで、たいへんよい刺激になった。楽譜をたくさんいただき、「次回は一杯やりましょう。」と、約束をして別れた。

【訪れた主な演奏会】

〇 1993(平成5年)11月10日(水) ナルシソ・イエペス / 秋田市文化会館

〇 2004(平成16年)        柴田 周子     /平鹿町中央公民館

〇 2007(平成19年) 10月20日(土) 木村 大   / アトリオン音楽ホール

〇 2009 (平成21年) 11月15日(日) 村治 佳織      /大曲市民会館

〇 2012(平成24年)7月26日(木) ホルヘ・ルイス・サモラ/アトリオン4階

〇 2012(平成24年)9月23日(日) 村治 佳織・村治 奏一 / 酒田市民会館

○ 2018(平成30年)12月8日(土) キム・ヨンテ  柴田 周子  荻田ヒサ子(マンドリン) / 横手市かまくら館

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