方言の話

ちょすな……昭和59年、久々に故郷に帰り勤務することができた。少し緊張しながら職員室を見まわしていた時だ。何のスイッチなのか分からないが、下に「チョスナ」と書いた小さな張り紙がしてある。それもかなり年数を経たものか、黄ばんでいた。一瞬、何のことかと考えてしまったが、次の瞬間には吹き出しそうになった。知らない方のために記すと、「触るな」という意味の方言である。「ちょす」とは「触る・いじる」なのだ。時がたって平成30年11月11日、ラジオを聴いていたら、函館の若い女性が地元の方言としてこの言葉を紹介していた。北海道でも使うのかと妙に感心してしまった。考えてみれば、北海道は開拓地、入植・屯田などで全国各地から人が集まってできた地だという。必然的に言語も人に伴って集まってきたのだから、各地の方言が混在していても不思議はない。

ほとびらかす……古典の伊勢物語の中の「東下り」に出てくる言葉。東へと旅する一行が、三河の国、八橋という所に着いた。京の都から遠く離れてしまったなあと悲嘆にくれて、「乾飯(かれいひ)の上に涙落として、ほとびにけり」(乾燥したご飯の上に涙を流したので、ふやけてしまった)とある。「ほとぶ(潤ぶ)」を使役の言い方にしたのが、「ほとびらかす」。乾燥して保存しておいたゼンマイを、茹でて柔らかくするときなどに使う。雄物川町大沢の子に聞いた方言である。方言は昔、中央で使われていた言葉が地方に残ったものが多いようだ。秋田で使う「で、やれ」(我・吾で、やれ)=「自分でやれ」。一人称のこの言葉「わ」は古事記などにも出てくる古語である。古語辞典にはあるが、一般には使われず、方言として残っている言葉はかなりある。以前、たくさん集めてメモしておいたが、紛失してしまい、かすかな記憶で数例だけ挙げる。(思い出ししだいに追加していこう。)

はたる(徴る・債る)…徴収する。催促する。使用例「犬がえさをはたっている」

ねまる(すわる)…涼しさを我が宿にしてねまる也  芭蕉(奥の細道)

なじぎ(なずき)…ひたい(額)。古語辞典には「額」の字で載っている。

おどげ(あご)…おとがひ(頤)。あご・下あご。

たまな(キャベツ)…江戸時代まではキャベツは観賞用だったという。牧野富太郎博士の原色植物図鑑には、「たまな(玉菜)。キャベツともいう」と書かれている。

ほえどっこ・ほえど(乞食)…目に「ものもらい(麦粒腫)」ができると「ほえどっこ、でぎだ」などと言ったが、「こじき=ものもらい」からの連想であろう。人を罵るときなどにも「この、ほえど!」などと使ったが、乱暴な言い方なので近年は聞いたことがない。

One thought on “ちょすな!”

  1. お変わりありませんか。
     先週のことですが、93才の義母が「ちょすな」と言ったのです。
     義母は、昼間は小さな椅子に座った状態で炬燵に足を入れて、テレビを見るとはなしに見ていたり、居眠りしていたりしながら過ごしています。その時は、いつものように居眠りをしていたので、イタズラ半分に指先で腿のあたりをツンツンとしたら、突然「ちょすな」と言ったのでした。
     菊谷さんのブログを思い出したので、義母に「ちょすなって、どういう意味?」と聞いたら、「触るな」と返されました。
    家内のスマホで調べてみたら、仙台弁となっていて、意味は菊谷さんのブログと同じで、「さわるな」「いじるな」ということでした。義母はアルツハイマー型の認知症を患っており、病状はかなり進んでいるようですが、思い出したかのように言ったのです。菊谷さんのブログを読んでいたせいか、その時には懐かしさと新鮮さも感じたりしました。
     話は変わりますが、横手の方では、「いずい」という表現はありますか。その意味は、上手くニュアンスを表現できないのですが、小さなゴミが目に入った時のような、あるいはサイズの合わない洋服を着た際の「心地悪さ」や「しっくりこない」という感じだというのですが・・・。栗原の方では、今も使っている人もいるようです。
     それでは、今年も菊谷さんの「文章、写真、音楽」等を楽しみにしながら、健康寿命の延長に向けて頑張りたいと思いますので、宜しくお願いします。それにしても、いまだにスキーを楽しんでいるなんて、何と羨ましいことでしょう。千田

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