クラシックギターの曲に「マリエータ」という渋い曲がある。スペインの作曲家タレガの作品である。有名な「アランブラ宮殿の思い出」など素晴らしい作品を数多く残している。何やらウイスキーがよく似合う曲だと、若いころから感じて弾いていた。ところが、この曲の冒頭4小節目に非常に難儀な箇所がある。左手が問題なのである。4フレットをセーハして(人差し指で6本の弦を全て押さえること)、6弦で低温の♯ソと1弦を4の指(小指)で押さえて高温のドを出す。その後、付点四分音符で4(小指)をずらしてシを出す。と書けば、そんなに難しいことではない。問題はこのメロディのド→シの中間に、2弦5フレットのミを2の指(中指)で、3弦4フレットのシを1の指(人差し指)で、同時に弾くという和音が入っているのだ。ギターを持っている方は挑戦してみてほしい。アコースティックギターやエレキギターはネックが狭いので可能なのだが、クラシックギターではたいへんに難しい。2(中指)を大事に音を出すと4が出ず、メロディの4を出さないわけにいかないため押さえると2が無理なのだ。私の指の長さでは、とほほ…物理的に無理!

4小節:赤の×印がどうしても出せない音

そんなわけで、この曲は大好きなのだが、この部分があるためレパートリーに入れずに何十年も封印してきた。ところが、最近になって、考え方が変わってきた。「何も楽譜通りに弾かなくてもいいのではないか!」そういえば、プロの連中だって楽譜通りには弾いていないではないか。有名なアルベニスの「レイエンダ」でも、低温のミを3拍伸ばすという楽譜なのに他の指の関係で伸ばさないで弾いている。これは一人や二人ではなく、何人も見ている。実際に弾くと、そうしないと演奏できないのである。したがって、仕方がないのだ。自分は先の2で弾くミを省略することで、可能なことが分かった。1音だけ無視することにより、弾けるのである。ああ、こんなことで何十年も……何を今さらと笑われそうなことである。楽譜にも実はたくさんの間違いがあり、見つけるたびに修正して弾いてきた。あまり生真面目に考えず、おおらかに音楽と向き合っていこうと改めて思っているところだ。「マリエータ」はもちろん、数日前からレパートリーに追加されている。

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