虫の音(ね)と 星に囲まれ 魂(たま)送り
(評)お盆にまつった死者の霊を、八月十六日の送り火で送り返すのが魂送り。そんな日にふさわしい虫の音と星座に囲まれての夜となった。
十月も半ばとなり、きょうは16日。棗(ナツメ)の実が色づくころとなった。猛暑であった八月に投句した中から、上の句が佳作として新聞に載った。秀逸に次ぐ佳作は初めてのことである。選者の評にある通りに、送り火を焚いていた時の実景である。暑い暑いと嘆いていた毎日なのに、近くの草叢からは秋の虫の声が聞こえてきた。目を転じて空を見上げると、美しく雄大な星空である。先祖たちは迷わずにあの世へ帰ったであろうか、などと思っていた。五感を使っての写生俳句を心掛けていたので、この日は聴覚と視覚、地上から天へと視点を移してみた。まあ、それは後で気づいたのであったが。八月の投句では、次のような句もあった。
すくい取れば 裏見の滝や 心太
小蛙の 着地を見届け 豆をもぐ
幾千の 蟋蟀の声 月の下
長雨に 耐えて朝咲く 木槿(むくげ)かな
自分としては、もし選ばれるとしたら心太の句かなと内心期待していたのであった。いずれにせよ、投句してから二か月も経っている。そのためタイトルはどうしても「忘れていた頃に」などとなってしまう。なお、九月、十月はまるで句ができていないので、しばらくはお休みということになる。