久しぶりに岩ガキを求めて、日本海を見に行った。季節限定のため少し遅れるとその年は食べられなくなってしまうのだ。昨年もそうであった。そこで今年は盛期のうちにと思い、出かけたのだ。3連休の初日である土曜日というのに、予想に反して人出は少なかった。わいわいがやがやの中で、並んで待つなどというのは大嫌い。ところが、その日は妙に空いていた。
食堂のテーブルに座って、地元産の生ガキを注文した。すぐ出てくるものかと思っていたが、だいぶ待たされた。殻をむいて出すまで手間がかかったのだろう。やっときた。んっ?小さい。予想と違ったことに気を取られ、写真を撮らずに、ぺろりと食べてしまった。ほんの一瞬である。人の記憶とは面白いもので、急に40年も前に遡った。20代の頃、九州宮崎を旅したことがあった。真夏の海岸で岩に着いた無数のカキがずうっとはるか向こうまで続いている所に行った。石で割っては塩水で洗い、好きなだけ食べたのだった。小さいカキだが、海に遠い盆地育ちの自分には、この上もない御馳走だった。だから鮮明な記憶として残っているのだろう。秋田の西目のこのカキは、岩ガキというイメージから、もっと大きなボリュームのあるものを期待していた。というのも、これまで食べてきた岩ガキはもっとずっと大きかったからである。残念…。気を取り直して、焼きガキを注文した。すると店の外にある屋台にあるという。それが下の写真である。石巻産だという。こちらは大きさも十分で1個300円、濃厚な味を閉じ込めた満足のいくものだった。まあ、生の方も大きさを言わなければ、つるっとした生ならではの濃厚な味であった。漁師の方々が素潜りで採ってくる苦労を考えれば1個500円は安いのだろう。お土産の生カキを買ってクーラーボックスに入れ帰ろうとしたら、妻が「焼きガキをもう一個食べようかな。」と言う。先ほどの屋台へ行き、「しばらく食べられないから、もう2個ちょうだい。」ということになった。旬のものを味わうというささやかな贅沢であった。