妻のポールウォーキングに付き合って、川沿いの農道を歩いている時だった。道路脇の用水路からいきなり一羽のカモが飛び出した。そして、我々の歩く道の10メートルくらい先で、ケガをしたようなぎこちない歩き方であたふたと逃げていく。走って追いかけたらすぐに低空で飛び、草むらに隠れてしまった。「たぶん、あそこの水路にはひな鳥がいるぞ。」と話しながら通り過ぎた。
小一時間しての帰り道、カモのことなどすっかり忘れて同じ場所を通りかかった。すると、また親カモが飛び出し、羽を地面につけてバタバタとびっこを引くように走り出した。今度は追いかけずに、飛び出した水路にそっと近づいた。見ると、幼児の握りこぶしくらいの雛が9羽ばかり一か所に固まって浮いていた。恐怖すら感じることができないような幼さで、ピーとも鳴かない。他の野生動物にも見つからないようにと祈りながら、その場を離れた。動物の親子が危険に遭遇すると、親が犠牲になって飛び出し、敵を引きつけている間に子供が安全な場所へ逃げる、ということがあるとは知っていた。ライチョウが厳しい風雪の中で、こうした自己犠牲の行動をとることも何かの本で読んだことがある。しかし、実際に見たのは久しぶりで、実に感動的で胸に迫るものがあった。